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灼熱東亜~在台日本人の観る日本・台湾・中国~

台湾に住む日本人大学院生が東アジア(日本・台湾・中国)情勢について書きます。

トランプ大統領の誕生と台湾

共和党のドナルド・トランプが民主党のヒラリー・クリントンを破り、来年1月20日に第45代大統領に就任する。共和党としては8年ぶりの政権奪還であり、同時に行なわれた議会選挙においても上院(定数100)、下院(定数435)ともに共和党が多数派となったことで、議会のねじれが解消し、完全勝利となった。

 

しかし共和党内での候補者の選定過程で、いわゆる党内エスタブリッシュメントとの間に不協和音が生じており、外交・安全保障部門をはじめ、トランプ陣営の顔ぶれがはっきりしていないなかで、当面は国際社会におけるアメリカの不確実性は高まるであろう。

 

国際社会におけるアメリカの力は相対的には衰退しつつあるとはいえ、アジア太平洋地域の既存秩序を維持し、平和と繁栄に対してアメリカがこれからも一定の影響力を及ぼし続けることを期待している国は少なくない。

アメリカのアジア太平洋地域におけるプレゼンスに安全保障を依存している台湾にとっても、トランプ大統領の誕生は米台関係及び台湾の安全保障の重大な変数である。

 

アメリカと中華民国(台湾)は1979年1月1日の米中国交正常化により断交したが、同年4月10日、アメリカは国内法として「台湾関係法」を制定し、事実上の外交関係を維持してきた。同法に基づきアメリカは台湾に対して武器売却が可能で、事実上の大使館として米国在台湾協会(AIT)を窓口機関として設置し米台関係を深化させてきた。

 

アメリカの対台湾政策はこの台湾関係法のほか、米中共同で発表した3つのコミュニケ(上海コミュニケ、国交樹立に関するコミュニケ、817コミュニケ)に基づいている。それらの核心は「一つの中国」原則にあるが、加えて1982年のレーガン政権期には米国在台湾協会の台北事務所所長であったジェームス・リリーが口頭で蒋経国に対していわゆる「6項目の保証」を伝達した。これは(1)台湾への武器売却の期限を設けない(2)台湾への武器売却について中国と事前協議を行なわない(3)中台間の調停を行なわない(4)台湾関係法の改正に同意しない(5)台湾の主権に関する立場を変えない(6)北京当局と協議するよう台湾に圧力を加えない、という内容である。

 

2016年7月、共和党は党全国大会においてこの「6項目の保証」を政策綱領に初めて明記した。その経緯は同年4月から7月にかけて上下両院において、「台湾関係法」及び「6項目の保証」を再確認する決議案が可決されてきたことにある。

 

上記のようにアメリカが「台湾関係法」及び「6項目の保証」を堅持することが米台関係の基礎となっている。

 

したがってトランプ新政権が共和党の綱領に基づき「台湾関係法」及び「6項目の保証」を堅持さえすれば、米台関係の根本的な変化は避けられるだろう。

 

トランプの就任が確定した9日夜、蔡英文は高級幹部会議を開催し、行政院の3部長及び国家安全会議秘書長の報告を受けた。総統府報道官の黄重諺によると、同会議上、蔡英文は「台湾関係法」及び「6項目の保証」に関する決議案がアメリカ議会で可決されたことを改めて評価し、それがアメリカの党派を越えたコンセンサスであることから、トランプ政権下の米台関係にも自信を持っていると述べたという。

 

蔡英文は外交部を窓口としてトランプに対し祝電を送っている。祝電では「米台関係は自由、民主、人権などの普遍的価値および平和促進、安定と経済繁栄の共通利益に基づいている」とし、「域内あるいはグローバルな議題にかかわらず、台湾はアメリカを緊密かつ頼りにできるパートナーとし続け、米台共同の努力のもと、双方の友好と互恵関係を更に強化する自信がある」と述べた。

蔡英文の自信の裏には不安もあるはずである。選挙戦ではトランプは一度だけ台湾に言及し、台湾がアメリカ人労働者の雇用を奪っていることを非難した。また台湾が加盟を目指すTPPについてもトランプは選挙戦で反対の立場を明言した。

 

当面は不確実性が高まるが、スタッフの顔ぶれや外交方針なども就任日の1月20日に向けて徐々に明らかになっていくはずだ。台湾にとってはトランプが共和党の綱領にある通り「台湾関係法」及び「6項目の保証」を堅持するか、TPPの行方がどうなるかを注視していくことになるだろう。