灼熱東亜~在台日本人の観る日本・台湾・中国~

台湾に住む日本人大学院生が東アジア(日本・台湾・中国)情勢について書きます。

蔡英文総統の中米4カ国歴訪

1月7日から1月15日まで、台湾の総統・蔡英文は「英捷專案(“英”は蔡英文の“英”、“捷”は敏捷の“捷”、專案はプロジェクトの意)」と名付け、国交のある中米4カ国を歴訪した。蔡は総統就任後の6月24日から7月2日にかけてパナマとパラグアイを訪問(英翔專案)しており、今回は二度目の外遊である。

 

現在、台湾と外交関係のある国は21カ国(2016年12月21日に西アフリカのサントメプリンシペとの断交を発表)であり、今回、訪問したのはそのうちのホンジュラス、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルであった。また訪問にあたり、7日と14日にはアメリカのヒューストンとサンフランシスコを経由している。

 

今回の外遊に同行したのは、政府からは国家安全会議秘書長の吳釗燮、外交部部長の李大維をはじめ、吳新興(中華民国僑務委員会主任)、姚人多(総統府副秘書長)、曾厚仁(国家安全会議副秘書長)、林總賢(宜蘭県県長)、侯清山(外交部次長)、翁章梁(行政院農業委員会副主任委員)、王美花(経済部次長)、黃重諺(総統府報道官)、劉志斌(総統府侍衛室中将侍衛長)、張文蘭(総統府公共事務室主任)であった。

財界からは林清波(ロイヤルホテルグループ総裁)、蔡宗融(開陽グループ董事長)、林見松(世界台湾商会連合会総会長)、陳郁然(台湾国際農産開発公司董事長)、黃育徵(台糖公司董事長)、詹正田(財団法人中華民国紡織業拓展会董事長)であった。

その他、立法委員のうち民進党から陳明文、姚文智、莊瑞雄、余宛如、時代力量から洪慈庸、親民党から周陳秀霞が同行したが国民党からの同行者はいなかった。

 

外遊目的について、蔡は出発前に、「堅実外交・互恵互助」の原則の下、(1)国交樹立国との関係を強化し、台湾が国際舞台へ羽ばたくための足場を築くこと(2)国交樹立国との協力プロジェクトを深化させ、海外で働くすべての台湾の人々を勇気づけることと語った。実際、外遊帰国後の15日に発表した談話において、外遊中に4名の国家元首と会談を行ない、グローバル社会の趨勢や将来の二国間協力の内容を話し合ったこと、またアメリカを経由した際に「重要人物」と会談したことなどを取り上げ、(1)の目的の成果を強調した。また(2)についても、訪問国で大使館職員や経済人、華僑を激励したことに言及した。

 

今回の外遊の中でも特に経由地であるアメリカのヒューストンとサンフランシスコでは多くの「重要人物」と接触している。明らかになっている主な行動は下記の通りである。

 

 

1月7日(ヒューストン)

・米国在台協会(AIT)会長のJames Moriartyと会談

・ヒューストン市長のSylvester Turnerと会談

・MD Anderson Cancer Center、ヒューストン美術館を訪問

・在米華僑との夕食会出席

James Moriartyのほか、下院議員Blake Farenthold(共和党)、Al Green(民主党)らが出席。

 

1月8日(ヒューストン)

・上院軍事委員長のジョン・マケインと電話会談

米国防部官僚の訪台制限を緩和する「国防権限法案」が議会を通過したことに対し蔡から感謝が述べられた。

・上院議員のテッド・クルーズと会談

クルーズより事前に中国側から接触を避けるよう圧力があったと証言。蔡よりTPPが困難となる中、米台間の自由貿易協定締結も「新しい方向の一つ」であると述べると、クルーズから支持があった。

・テキサス州知事のグレッグ・アボットと会談

 

1月14日(サンフランシスコ)

・Twitter本社見学

・在米華僑との昼食会

下院外交委員長のエド・ロイスの妻のほか、サンノゼ市長サム・リッカードらが出席。

 

 

なお、今回アメリカにおいてトランプ新政権関係者との接触については明らかになっていないものの、15日、毎日新聞は、台湾外交部関係者によると新政権で要職に就任する可能性のある元国務次官補代理のランドール・シュライバーと会談したと報じている。

 

4カ国歴訪については、9日にホンジュラス、10日にニカラグア、11日にグアテマラ、13日にエルサルバドルの順に訪問した。

なかでもニカラグア訪問では当初、明らかになっていなかった首脳会談が実現し、ダニエル・オルデガの大統領就任式典では蔡が来賓の序列1位であったほか、オルデガが蔡を「台湾総統(Republica de Taiwan)」と紹介するなど注目を集めた。

 

今回の外遊期間中、中国はいくつかの行動をとっている。1月11日には中国空母「遼寧」が台湾海峡を通過した。

また同日ナイジェリアを訪問していた外相の王毅はナイジェリア外相のオンエアマとの共同記者会見において、両外相が「一つの中国」原則を堅持することを唱った共同声明に署名したと発表した。

台湾とナイジェリアには外交関係はないが、1990年11月21日に覚書を交わし、1991年4月に当時の首都ラゴスに窓口機関として「中華民国商務代表団」を設置した(その後2001年8月、現在の首都アブジャに移転)。

これについて王は「明らかに『一つの中国』原則に違反している」と述べ、窓口機関の名称変更と、首都からの移転、人員削減、政府高官の往来禁止を要求した。

なお台湾外交部は1月12日、ナイジェリアに対して抗議と非難を表明し、ナイジェリアに人員を派遣すると発表した。

 

これらの中国の行動と蔡英文の外遊の関連性については引き続き分析の必要はあるが、蔡英文政権以降、中国政府が「一つの中国」原則の堅持を積極的に国際社会に働きかけていることは明らかである。

 

その一方で1月20日に大統領に就任するトランプは14日、ウォールストリートジャーナルのインタビューに応じ、米中関係について「すべての事項が交渉の対象となり、それには『一つの中国』原則も含まれる」と発言し、「一つの中国」原則を堅持するかどうかを曖昧にした。

 

中国の「核心的利益」である台湾について従来、米中間では「一つの中国」原則がコンセンサスとなっていたが、それが揺らぎ始めている。また中台間においても蔡は「92年コンセンサス」を認めていない。このような状況下で蔡英文の外遊に対して中国が圧力をかけた可能性は否定できず、同時にトランプ新政権への牽制の意味が含まれているとも考えられる。

 

「一つの中国」原則をめぐって、引き続き中国は台湾と外交関係のある国々に対して働きかけを強め、関係の分断を図るだろう。加えて台湾およびアメリカに対しては各種レベルの行動をとり圧力を強めることが予想される。